PHOTO:Mitch Gunn / Shutterstock.com
さて、今回のスキーが上達する練習方法はすでに引退したアメリカの元エース、ボディ・ミラーについて書いてみようと思います。
まず最初に言っておきたいのは、
[jin-iconbox07]今ではあまり役立たないスキーテクニック(たぶん)[/jin-iconbox07]
だと言うことです。
理由については後述しますが、現役最後のレースとなった2015年アルペンスキー世界選手権男子ダウンヒルまでラップだったので、今回は1つのスキーテクニックとして彼の滑りを取り上げます。
[box05 title=”この記事はこんな人におすすめ”]
- なかなか完走できない人
- 完走すれば速いけど、すぐポールから抜けて途中棄権する人
- スキーの板を走らせる方法を知りたい人
- ターンの抜けを良くしたい人
[/box05]
こんな人には役立つかと思います。
目次
圧倒的にタイムが出るアルペンスキーテクニックとは?なぜボディミラーは荒削りでも速かったか?
Mitch Gunn / Shutterstock.com
結論から言うと、
まっすぐ攻めていたから。特に腰の位置を高くして板のたわみを最大限生かして、ターンの抜けが他の選手よりもよかったから。
です。
彼を進化させたのがマルセル・ヒルシャーではないかと思いますが、当時のポールセットは今よりもだいぶストレートな感じです。佐々木明さんもDVDの中で
「真っ直ぐすぎる」
と語るくらい、2003年頃から2010年頃までポールセットは今よりもストレート気味な時代がありました。
参考:佐々木明の流儀(確か1のほうだったはず)
日本人選手は海外に比べて国内レースでは振ったポールセットの大会が少ないせいか、海外の難易度の高いセットと斜面にはめっぽう弱く、特にクラシックレースと呼ばれるウェンゲン、キッツビューエル、ガルミッシュ・パルテンキルヘンでは成績が出づらい傾向があります。
とは言え入賞者、表彰台経験のある日本人選手もいますが、やはり時代的に2003年〜2010年の間に入ってきます。(大越龍之介選手がウェンゲンでW杯ポイントが取れるのは、日本選手で1番基本的なオーソドックスなスタイルだからだと思います。佐々木明選手も2位のときかなり巻いて滑ってます。)
そしてピーク時の2006年トリノオリンピックで日本人2名が男子回転で8位以内に入るという結果を出したわけです。
ですが日米が活躍する時代がいつまでも続くわけがなく、2010年のバンクーバーオリンピックでのオーストリアチーム惨敗から
「やっぱアルペンスキーは我々ヨーロッパ人のものじゃね?」
と思ったかわかりませんが、スキージャンプのようにルール変更とまではいきませんが、ヨーロッパ勢に有利なセットが目立ち始め、日本勢とアメリカ勢が徐々にリザルトから消えていくということもこの頃から徐々に起きてきています。
ボディ・ミラーもバンクーバーオリンピックを境に技術系種目の結果がまったく出なくなりました。一方、急激なエッジングをしない、振ったポールセットに強く、深いターン弧を得意とするテッド・リゲティがR35ルールで一気にGSで勝利する時代に入っていきます。
なぜミラーは速かったのかを連続写真で見てみる。ターンがいかに短いかがよくわかる画像がこれ。
まずは連続写真で彼のスラロームをご覧ください。結果として途中棄権になってますが、ポールに入るまでにいわゆるCの字型の弧がないことがわかります。
PHOTO:Mitch Gunn / Shutterstock.com
いわゆる片足通過反則で彼はコンバインドで途中棄権となったわけですが、2枚目の写真を見ると
ポールの手前までターンを開始していないことがわかる
かと思います。
このミラーのように急激に板をたわませる技術は皆川賢太郎さんをはじめ何人かできる選手が当時いました。
一方、2010年で惨敗に終わったバンクーバー五輪でのオーストリア男子チーム。
エース、ベンヤミン・ライヒを筆頭とする
「丸い弧をきちんとターン前半から描く」
というオーソドックスな昔からある基本的なアルペンスキーテクニックが重視されてましたが、これが逆に裏目に出たのがバンクーバーオリンピックです。
確かにこのスキーテクニックはどんなセットにも対応できるというメリットがある分、ターン前半からたわませるので、エッジング時間が長いというデメリットもあり、滑走性で負けてしまいます。GSでもSLでも速い選手はリスクを犯してでも板を極限まで横にせず、なるべく板が縦方向になっている時間を作り、スキー板の性能を最大限引き出すテクニックを使います。逆にライヒの滑り方、ライン取りは難易度の高いポールセットでやると効果が出ます。
これは私自身も緩斜面の多いGSの大会で実際にやったことであり、板を減速する横方向に向いている時間を限界まで削減するため、全部の旗門をクローチングして降りてくるということをやりました。こうすることで、無駄に板を横にせず済むので、カービング前の時代はこれでタイムが出たわけです。(昔は本当にターンが簡単でした。ポールインターバルもあったので。)
実際に私の高校でもアルペンスキー上達方法の教科書〜約1ヶ月でGS1本目73番から9位になった練習方法〜のポール練習でGSで急激に実力をあげた選手がいましたが、一方でただラインがまっすぐの選手は公認大会では上位に行けてもインターハイではまったくダメだった選手もいます。
ミラーもまっすぐなライン取りで
「完走したら速い」
という選手です。しかし、時が進むにつれR35ルールになり、ラインがまっすぐぎみの選手はターンを始動する際にスキー板のテールを振る、いわゆる「ズラし」を使って入っていくしかなくなるのでタイムが伸びなくなりました。実際の比較映像がニューヨークタイムスの動画にあるので、下記をご覧ください。(再生後1分37秒から)
ミラーは完全に外足荷重で内足から雪煙が上がらず、テールをズラして入ってるので雪煙が上がってます。つまりブレーキしながらミラーはポールに入ってるのですが、リゲティは内足にも荷重をしており、両足から雪煙が上がってますがその分ターンがスムーズです。
外足に乗っている時間が長いと確かにターンの抜けは良くなりますが、振ったポールセットでは次のターンがきつくなり、ズラして入ったりするケースも出てくるのでミラーは昔のスキーテクニックのままGSで戦ってたわけです。
ここで注意したいのは、
板を縦方向にすることとラインを縦にすることはまったく意味が違うということ。W杯選手たちが「直線的」という意味はラインではなく、ターンしている時間を極限まで短くすること
を指します。(ターン前半で巻きすぎた場合はラインをまっすぐにしないといけないですけどね)
なので、2003年〜2010年頃はミラーのような滑りをする選手が有利だったのもまた事実で、ある意味ワールドカップに適応させていたのか、それともたまたまマッチしていたのかもしれません。
実際にミラーのような滑りをGSとかSLで取り入れると確かにまっすぐなセットはターンの抜けも良くなり、タイムも変わります。このことはアルペンスキー上達方法の教科書〜約1ヶ月でGS1本目73番から9位になった練習方法〜でも書いてますが、私も板を縦にし、徹底的に上体をフォールラインに向けっぱなしにすることでタイムが伸びていってます。
そして大会もまっすぐなセットが立ちやすい場所を選択し、1本目73番から9位という成績を出してます。(具体的な話はリンク先の有料記事をご覧ください)
ターンの抜けを良くする方法
上記のボディミラーのSL画像を見てもわかる通り、アルペンスキー競技おいてターンの抜けを良くする方法が存在します。それは、
- 腰の位置を高くする
- 上体をフォールラインに向けっぱなしにする
- 板を縦にすることでたわみが生まれ、反発力で加速する
というわけです。
すごくザックリな解説ですが、アルペンスキー上達方法の教科書〜約1ヶ月でGS1本目73番から9位になった練習方法〜に書いてあるような練習方法できちんとした腰の位置、加重を覚えるとターンの抜けが実感できるかと思います。
有料記事の方はあくまでも基本をマスターするためのトレーニング方法
PHOTO:PHOTOMDP / Shutterstock.com
スキーの基礎は大事です。
ですが、レベルの高いレースになるほど、頭の位置は動かしませんし、もっと高度な技術が必要です。マルセル・ヒルシャーは特に足首の使い方がうまいと言われますが、一般レーサーのほとんどは足首とかまで気にすることができないと思います。
しかし、競技初心者の場合、腰の位置や上体、下半身の使い方をきちんと基本的なポールセットで練習することで、タイムアップができます。問題は多くの選手は
「大会のようなセットでいきなり練習している」
ということです。もちろん、これも大事なのですが特に初心者にとっては入り口としてはどうかなと思っており、基本練習をやってから伸びたので正しいフォームを覚えることが先決ではないかと思ってます。
今回はボディミラーを取り上げましたが、まっすぐな滑り、まっすぐなポールセットではスキーの基本中の基本を学ぶことができます。
まっすぐなセットすらできないのであれば、当然振ったセットでもきちんと滑ることができないので、最初はまっすぐなセットから板の抜けを良くしていく練習をしていくと良いでしょう。
腰の位置が悪いときちんと板に力が伝わらないので、ターン後半のスキーの抜けも良くならないです。「抜け」とは加速することです。